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鈴木耕太×大田礼子 a la carteスペシャル対談「最高級料理をビストロで味わう舞台」

鈴木耕太×大田礼子 a la carteスペシャル対談
「最高級料理をビストロで味わう舞台」

  

“琉球芸能ソムリエ”がいる一風変わったビストロを舞台に、沖縄のバリエーション豊かな芸能を味わえる舞台「a la carte」。今回お届けするのは、ソムリエ役の鈴木耕太氏とステージングの大田礼子氏が、笑いあり、驚きあり、飛び入りゲストありでお届けする、スペシャル対談の第2弾です。どうぞごゆっくりとお楽しみください!

  

鈴木耕太×大田礼子 a la carteスペシャル対談「最高級料理をビストロで味わう舞台」
対談は「(公財)沖縄県文化振興会 会議室」にて。対談時は美しいサンセットタイムだった
写真左:鈴木耕太氏/写真右:大田礼子氏

  

  

実は『はじめまして』です

  

鈴木耕太
(以下 鈴木)

(壁に貼ってある「a la carte」のポスターを見ながら)
このポスターいいですよね。レストランにあるメニュー表みたい。

大田礼子
(以下 大田)

本当に!この先生(鈴木氏のこと)の写真って、今回の「a la carte」用に撮影したんですか?


鈴木

そうなんです。

大田

すごくイイ写真!

鈴木

ありがとうございます。(照れ笑)。

大田

これまで玉扇会として、先生とは色々なところで関りがあったものの、こうして直接お会いして2人でお話するのは初めてですよね。

鈴木

そうなんですよね。もちろん僕は、礼子さんのことを舞台で何度も拝見しています。「美(ちゅら)」(大田礼子氏が率いる1998年創設の女性歌舞劇団)なんて、僕は物心ついた頃から見てますよ。

大田

えぇ~!?そんな(笑)

鈴木

(笑)。いつも礼子さんの踊りを見て『あぁ、美しいなぁ』って思っていました。

大田

ありがとうございます。(照れ笑)。私も先生のお話は玉扇会メンバーからよく聞きますよ『とっても素晴らしい』って。でも、今日ちゃんとお会いして驚きました。どこかの芸能人かサッカー選手かと思ったくらい!

  

実はこの日が“ほぼ”初対面の2人
対談開始直後は、少し照れくさそうに互いの印象を話していた

  

鈴木

そもそも舞台の解説をしたり、書いたりすることはあるけど、今回の「a la carte」みたいに“僕が舞台に出る”ということ自体ないから、基本的に共演はないですし。

大田

そうだ、それ重要ですね。じゃあ共演は、玉扇会が“初”ですね!

鈴木

はい。(笑)

大田

私たち踊り手は、普段のお稽古でも『踊りの歌詞を理解すると全然違う踊りになる』と教わるんです。だから今回の舞台で先生のお話を聞くだけでも、踊りの背景や、込められた想いをより深く知ることができて、演者である私たちの気持ちの入り方も違ってくるんだろうなと思っています。

鈴木

いえいえ、そんなに恐縮しないでください。 琉球芸能ソムリエとして歌と踊りの説明はきちんとしますが、後半は100%僕の主観で話すことになると思うので。『この踊りの、こういう動きが、僕はグッときます』とか『この歌の、この部分を、ぜひ聴いて』とか。

大田

なるほど。

鈴木

舞台が終わったら『あぁ、あの人は意外と普通だったねー』って言われるくらいを目指します!

大田

そこを目指すんですか。(笑)

鈴木

それくらいが、ちょうどいいかなって。(笑)

  

舞台「a la carte」では鈴木氏が“琉球芸能ソムリエ“として
沖縄の多彩な芸能を軽快なトークと共に紹介してくれる

  

  

感情が 踊りに命を与える

  

鈴木

たとえば「伊野波節(ぬふぁぶし|人知れぬ恋に思い悩む女心を描いた古典女踊)」。あの踊りを見て、想いを寄せる人に『会えたか、会えなかったか』を気にする人も多いですけど、僕は『会いたい』がいいんじゃないかなぁと思っていて。

大田

うんうん。

鈴木

約束もできない、会えるかどうかも分からない、だけど会いに来た。それって今の時代でも共感できることじゃないですか。その背景を知ってから踊りを見てもらうことで、同じ所作でも小走りに見えるのか、優雅に歩いているように見えるのか、その違いを観客の皆さんにも味わってもらえたらいいなぁって思っています。

大田

うん。やっぱり、こういう話を聞くだけでワクワクします!踊りの所作ひとつに込められた意味の“その先”を自分自身で想像するというか……踊り手も、演出や役作りが変わってくるんじゃないかなぁと。

鈴木

なるほど。

大田

『この踊りは、どういう心情で踊られているか』というのは、日頃のお稽古でも、家元が大切に教えてくださる部分なんです。「綛掛(かしかき|大好きな人のために織物を織ってあげたいという女心を描いた古典女踊)」だって、『初々しい恋心でマフラーを編んでる気持ちだよ』ってなれば、子供たちもちゃんと好きな人を想って踊るんですよね。

鈴木

昔も今も、一緒ですよね!

大田

そうですね。一緒ですね!(笑)

  

  

  

大田

初演がどんな雰囲気になるか、今からすごく楽しみです。

鈴木

スベることがあったら、全部僕の責任ですから。それくらいの気持ちで臨みます。(笑)

大田

よろしくお願いします。(笑)

鈴木

実は、「a la carte」のPR動画を見て、ちょっと緊張してるんです。僕のトークを挟んでいいのか!?って。

大田

もちろん、大丈夫です!

鈴木

本公演に向けて、僕のハードルはどんどん上がっているけど、僕も後ろ(琉球芸能ソムリエの解説の後に舞台で踊る演者さんたちのこと)のハードルを上げようと思っているから。(笑)

大田

(笑)

  

YouTubeで公開されている「a la carte」PR動画では
今も昔も変わらず息づく この島の芸能の姿を垣間見ることができる

  

鈴木

僕はまだ、演目の詳細を知らないんですけど、今回はいわゆる琉球芸能を知るための入口となるような、基本的な演目が選ばれるんですよね?

大田

そうですね。

鈴木

多分ですけど、実演家の皆さんにとって、そう言った基本的な演目ばかり並ぶ舞台をやるのは、すごく大変なんじゃないかなぁって。

大田

雑踊、女踊、若衆踊、どれも本当にベーシックな演目を選んでいて。今、富田めぐみさん(演出)と、演目全体のバランスや人選を考えているんですけど、すでに四苦八苦です。(苦笑)

  

———ここで、対談を見守っていた演出の富田めぐみ氏も、対談に緊急参戦。

  

富田めぐみ
(以下 富田)

玉扇会の演目をまとめたメニュー表があるんだけど、すっごい分厚くて!


大田

そう、こんな分厚い(手を広げる)メニュー表があるの!

鈴木

うわっ、すごい。どうしよう。(笑)。演目の選定は、もうお任せですね。……でも、僕に演目を知らせるのは『公演前日になってから』とかはやめてくださいね。

大田

じゃあ、いっそ当日とかにしますか?(笑)

鈴木

(笑)。

  

大田礼子氏の「a la carte」PR動画の撮影風景
仕事、家庭、稽古。多忙を極めるなかの舞台製作には、並々ならぬ努力と苦労がある

  

  

沖縄てんぷらと ラーメンと

  

大田

あ、そうだ。今回は土日の公演限定で、子供たちも舞台に上がりますよ!

鈴木

おぉ、そうなんですね!

大田

しっかり踊れるならば、下は5~6歳の子からも人選を考えています。子供たちが躍ることで、舞台の雰囲気もガラッと変わるんですよ。

富田

それに、子ども達が出るから演目が限られるってことはなくて、古典も雑踊も、しっかり踊れる子がたくさんいるから候補曲がどんどん増えてく。(笑)

大田

そうそう!

富田

だから本当に選ぶのが大変。あれも、これもって。

鈴木

「a la carte」と言いながら、もはやフルコースですね。(笑)

富田

結果的に、フルコースよりもボリュームあるかも。『ちょっと注文し過ぎちゃったかなぁ』みたいなね。

鈴木

沖縄のてんぷらと一緒ですね。種類がいっぱいあって『イモも食べたいけど、イモ食べたら、ほかのが入らん』って。

富田

でも、食べたい!って。(笑)

鈴木

じゃあ、とりあえず魚とイカは絶対……みたいなね。(笑)

大田

沖縄あるあるですね。(笑)

  

  

大田

最近は琉球舞踊の創作舞台がたくさんある中で、「a la carte」みたいにベーシックな演目だけを並べた公演って意外とないんですよね。だから私は、逆に新鮮だなぁと感じていて。琉球芸能ファンの中には『古典舞踊ばっかり!?』と感じる方もいらっしゃると思うんですけど、私は『いえいえ、これだけ一気に見られるってすごくないですか!?』ってオススメしたい!

鈴木

ラーメンで言えば、“全部乗せ”ですもんね。

大田

そうそう!ぜ~んぶだよって。(笑)

富田

(笑)

大田

“新しい”ももちろん良いけど、昔から変わらずに継承されてきたものを、この舞台では見ることができる。舞台に立つ私たちは、踊り受け継いでいく責任も含めて、お客様に楽しんでいただけるように、しっかりお届けしていきたいんです。

鈴木&富田

うんうん。



大田

めぐみさんが演出する舞台の特長でもある、舞台と客席のキャッチボールも、先生のお話があることで、より一体感が増すのかなと楽しみです。

  

  

関わる全てが影響し合い 生まれる舞台

  

鈴木

うん。実は僕も、個人的にはこの舞台を地方の“村踊り”や“村芝居”の雰囲気まで持っていきたいなと考えていて。というのは、芸能が皆さんに大切にされて『見たい!』とか『踊りたい!』とか思ってもらえる原点は“村踊り”にあると思っているからなんです。それは、普段は普通のおじぃが舞台に立つと、すごくカッコよく見えたり、あんな風に踊るんだって見ていたり、あの雰囲気ってすごく良いと思うんですよね。

富田&大田

うんうん。



鈴木

実演するのはしっかりと受け継がれてきた正統派の踊りだけど、会場はアットホームというか。僕の語りでどこまでできるかは分からないけど、最終的にはお客様をその雰囲気に持っていけたら、舞台の中身も良く見えるようになるし、次の別の公演を見るファンにもなってくれるだろうと思って。

富田

そう!耕太さんが今言ってくれたことって、私も大事なポイントだと思っていて。礼子さんとも『この舞台の雰囲気は、高級レストランっていうよりもビストロだよね』って話をしているの。ビストロでは地元の人がワイワイがやがやしてるんだけど、出てくるものは旬の食材を使った、最高級の料理が出てくる。それって、すごく楽しいよね!って。

大田&鈴木

うんうん。



富田

“本物”をビストロの雰囲気で味わう。そんな舞台を作りたいなって思っています!そして、それができるメンバーをそろえたので大丈夫です!(笑)

大田

あ、またハードルが上がった。(笑)

鈴木

(笑)

  

  

鈴木

ひとつ寂しいのは、ほかでもない“琉球芸能マニア”である僕が、「a la carte」を舞台の前で見れないことかな。一番前の席の人の“前”に座布団を1枚置いて、話し終わったら降りていこうかなぁとか……

富田

……いいですね。耕太さん客席で見た方がいいですよ。

鈴木

じゃあ、ついでに写真の撮り方講座とかしたりして。『皆さんココ!今ですよ!はい、カシャ!』とか。

富田&大田

(笑)



鈴木

『右手よりは、左手が上がったタイミングですよ~。右手の時は顔が隠れちゃいますからねぇ~』って。

富田

それいい!(笑)

大田

なかなか、そういうことって教えてもらえないですもんね。(笑)

富田

ね、いいですよ。シャッターポイント講座は終演後とかにやりましょうよ!

大田

分からず撮影すると、ブレたり、顔が隠れたりしますもんね。

鈴木

やりますか?(笑)

富田

それ、今いただきました!

大田

すごい!いままた新しい演出が決まった!?

鈴木&大田&富田

(笑)

  

  

  

  

  

———この日、琉球芸能を愛する3人の話題が尽きることはありませんでした。

こうして、溢れ出る新たなアイデアの結晶が集まって、 ひとつの舞台「a la carte」となり幕を開けるのです。

どんな舞台が生まれるか。ぜひ皆さまの目と耳でお確かめください———

   

  

琉球芸能をお好みで

———a la carte———

沖縄の“逸品”を味わうビストロへ、ようこそ。

  

  

  

対談した人

鈴木 耕太|すずき こうた

沖縄県立芸術大学附属研究所 専任講師/芸術学博士/組踊研究者。現在は、沖縄県立芸術大学で教鞭を執るかたわら、各地での講座なども積極的に行う。専門は琉球文学・文化学。

“今”より“100年後”どうあるべきかが大切だと考え、研究に力を注ぐ。琉球芸能・組踊の研究分野を牽引するフロントランナーであると同時に、軽快なトークとユニークな視点で琉球芸能ファンを開拓するイノベーターでもある。『沖縄』『琉球』と名のつくものには思わず反応してしまう敏感な体質の持ち主で、自他ともに認める筋金入りの“琉球芸能マニア”。舞台「a la carte」ではソムリエ役として舞台に立つ。

大田 礼子|おおた れいこ

舞踊家/振付家/演出家/ダンサー など幅広く活躍する。

琉球舞踊において、母である玉城流玉扇会二代目家元・玉城秀子に師事し、数多くの賞を受賞。国内外問わず活動の場を広げ、伝統の継承と若手の育成に力を注いでいる。伝統ある古典舞踊を踏襲しながらも、新たな表現方法を常に探求し続けるパイオニア。これまでも数々の舞台を通じて、琉球舞踊の魅力とハッピーを観客に届けてきた。舞台「a la carte」ではステージングを担当する。


  

Special Thanks

富田めぐみ|とみた めぐみ

演出家/司会者/コーディネーター/ラジオパーソナリティー など多彩な顔を持つ。

琉球芸能をベースとした舞台を通して『沖縄と世界を繋ぐ』という志のもと、世界各国での舞台公演おこなう一方で、沖縄の人・地域と琉球芸能を繋ぐ活動にも積極的に取り組む。実演家たちと共に作り上げる、年齢・言葉・国を超えた親しみやすい舞台は、受け継がれてきた伝統に忠実でありながらも琉球芸能に新たな魅力を吹き込む作品として注目されている。世界中を飛び回りマルチに活躍する“琉球を愛する人”。

  


a la carte(アラカルト)|2019年度 沖縄県文化観光戦略推進事業

■公演スケジュール

2019年 10月 11日(金)19:00
12日(土)13:00/16:00
13日(日)13:00/16:00

※開場は全日とも開演時間の30分前となります。

■会場
テンブスホール
沖縄県那覇市牧志3-2-10 那覇市ぶんかテンブス館4F

■チケット料金(税込)
一般:2,500円
高校生以下:2,000円

※未就学児に限り膝上鑑賞無料

→チケット購入はコチラから

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富田めぐみ×與那國太介 a la carteスペシャル対談

富田めぐみ×與那國太介 a la carteスペシャル対談「琉球より愛をこめて」

      

      

“琉球芸能ソムリエ”がいる一風変わったビストロを舞台に、沖縄のバリエーション豊かな芸能を味わえる舞台「a la carte」。10月に迫った公演を前に、演出家・富田めぐみ氏と音楽監督・與那國太介氏が、本公演にかける想いや制作秘話を語るスペシャル対談です。2人の軽快なトークとともに、あふれ出る琉球芸能への愛をたっぷりとご賞味ください。

 

富田めぐみ×與那國太介 a la carteスペシャル対談
対談は窓の外に国立劇場おきなわを臨む「浦添市産業振興センター結の街」にて。
写真左:與那國太介氏/写真右:富田めぐみ氏

 

琉球芸能のメニュー表は、ずっしり分厚い

 

富田めぐみ
(以下 富田)

いま、大田礼子さん(ステージング)と演目を選んで舞台の構成を詰めているんだけど、実はすっごい大変で。雑踊・若衆踊・女踊……「a la carte」の名前どおり、琉球芸能の色々なジャンルから、あれもこれもって“お好みで”食べてもらえるように選ぶんだけど、メニューがありすぎて困ってる。(笑)

與那國太介
(以下與那國)

決めきれないよね。全部、食べて欲しいってことでしょう?(笑)



富田

そうなの!本当は一口ずつ全部を食べて欲しい。それくらい琉球芸能は多彩なんだなぁって噛みしめているところです。

與那國

じゃあ、そうとう悩んでるわけですね?

富田

うん。結局『本日のオススメ』みたいな感じで、日替わりの演目にすると決まりました。(笑)

舞台「a la carte」では“琉球芸能”ソムリエのおしゃべりと共に
沖縄に息づく多彩な芸能を楽しむことができる

 

富田

たとえば、お客様がこの舞台を観て気に入った演目があったときに『あ、それがお好きですか?それは若衆踊で、ほかにもこんな踊りがありますよ!』みたいに、琉球芸能の“層の厚さ”を知ってもらうための入口になったら良いなと思って。 だから今回は、それぞれの素材の良さが分かりやすいシンプルな演目、いわば各カテゴリーの定番メニューを選んでお届けしようってことになったの。ほら、自分たちの視点だけで選ぶと、すごくマニアックな演目だけになっちゃうから。

與那國

確かに!見て欲しい演目はいっぱいあるけど、その全てが楽しみやすいか・分かりやすいかって言ったら、そうじゃないもんね。……僕らは演奏しすぎて感覚がマヒしているけど。(笑)

富田

(見せたいものはいっぱいあるけれど)そのあたりはグッと堪えるというか、葛藤をしながら皆で選んでいます。(笑)

富田めぐみ×與那國太介 a la carteスペシャル対談
富田めぐみ氏と與那國太介氏が、演出家と音楽監督して初タッグを組んだ舞台
「ルン♪ルン♪バルーン♪琉球舞踊」

 

音楽だけじゃない、音楽監督の仕事

 

富田

「a la carte」という名前では1公演だけど、公演期間3日間で日替わりだから実質3公演分。同じ日でも回によって違う演目もあるのでもっとかも(笑)。音楽監督 兼 地謡(じかた|演奏する楽師のこと。じうたい/じうてーともいう)の太介は大変!

與那國

(笑)。

富田

(笑)。

與那國

音楽監督として舞台をやるときって、曲に対してどんな味付けをしようか、想いをどう込めようかを考えるんですよね。『どういう見せ方をしたら、お客さんが楽しんでくれるか』も客観的に考える。

富田

一緒に舞台を作っている感じは、より強くなるよね。私も『こうしてほしい』というオーダーから『どうしようか?』という相談に替わるから、そこは本当に違うなって感じる。たとえば、曲と曲のつなげ方が違うだけで、同じ曲でも印象は全く違ってくるでしょう。だから音楽監督は、音楽だけじゃなくて作品全体の“見せ方”を工夫しなきゃいけない。

與那國

うんうん。曲と曲のつなげ方で言えば、僕は曲のジョイント部分である“間”をとても大切にしていて。間が長すぎると、お客様とのバランスが崩れてしまうから。でも、お客様との距離感みたいなものは、会場の空気感や拍手の長さで変わるから、当日になってみないと分からない。(笑)

富田

そうだよね。

富田めぐみ×與那國太介 a la carteスペシャル対談
「ルン♪ルン♪バルーン♪琉球舞踊」では與那國氏も地謡としても出演
バルーンで作られたハチマチを被り舞台を盛り上げた

 

音楽と照明の呼吸

 

與那國

それに加えて、照明さんとの関りもすごく大事になってくる。

富田

そうなの!音楽と照明って、どちらも“呼吸”が大切だよね。光をあてるだけじゃない、点ける・消すタイミングやスピードで全く違う見え方になるでしょう。

與那國

うん、照明と音楽の相性はすごく大事。舞台の照明を担当しているのは坂本義美さんで、本当に大先生なんだけど『こうして欲しい』っていうお願いごとはするようにしています。

富田

太介と坂本さんは相性いいよね。

與那國

(照れ笑)。

富田めぐみ×與那國太介 a la carteスペシャル対談
対談中、富田氏の言葉にたびたび照れ笑いをうかべる與那國氏

 

富田

坂本さんは、バレエや日本舞踊の照明に関わる第一人者でもあると同時に、琉球芸能のことをとても愛してくれている方で、いつも琉球芸能の素晴しさを再認識させてくれるんだよね。今のチームは、主張し合うんじゃなくて『どうやったら琉球芸能をお客様に楽しんでもらえるか』を皆で相談しながらできているのが良いなぁって感じてる。

與那國

うんうん。

富田

これまで『太介はいつも、照明と呼吸しているなぁ、お客様と呼吸しているなぁ』て思っていたけど、(照明と音楽の関係性を)同じように考えてたことがわかって嬉しい!

與那國

だから僕はいつも、舞台があって、僕ら地謡がいて、立方(たちかた|演者のこと)がいて、お客様がいて。僕は会場全体を斜め上の方から見て『どうしたら一体感がでるかなぁ』ってイメージするようにしている。

富田めぐみ×與那國太介 a la carteスペシャル対談

 

指揮者でもあり、料理人でもあり。

 

富田

こうやって考えると、音楽監督って舞台全体を指揮する指揮者っぽいところもあるよね。

與那國

そうそう!それに料理人っぽいところもあるなって思ってる。1曲やって次の曲に移るとき、拍手が終わるのを待つか、拍手の余韻を残したまま始めるか、それは次のメニューによるし、その場の雰囲気にもよるし。曲という素材をどう料理するかみたいな。ほら、次の料理がきてるのに、前の料理がお口の中に残ってたらイヤじゃない?(笑)

富田

逆に余韻を残しつつ、料理を楽しんで欲しい場合もあるしね。(笑)

與那國

特にこの「a la carte」は、宮廷舞踊から空手舞踊まで色々なジャンルの演目があるから。料理で言えば、いなむどぅち(沖縄の家庭料理)も、タコライス(沖縄のご当地グルメ)もあるみたいな。

富田

とぅんだーぶん(琉球王国の宮廷料理)も、ゴーヤバーガー(沖縄のファストフード)もあるしね。本当に、それくらい沖縄の芸能は幅が広いからね。

富田めぐみ×與那國太介 a la carteスペシャル対談

 

與那國

琉球芸能という素晴らしい素材が既にあるから、料理人としては『そこに味付けしすぎない』ことが大切かなと思ってる。素材の味が分からなくなったら、それは自己満足になっちゃうから。

富田

うんうん!素材を壊しちゃいけない。素材が一番大切で、この島にある素材そのものがクヮッチー(ご馳走)だから。

與那國

変な味付けならしない方がいい。

富田

その代わり私たちは、素材そのもの、つまり“芸”の精度を上げていかなければいけない。

與那國

うん。

富田

それと食べる順番も大切。同じ素材でも食べる順番で味が変わってしまうから、お客様には最後のデザートまでお腹いっぱい食べてもらえるように、どうやってお届けするのが良いか考えなくちゃいけない。太介とは、この考えが共通しているから一緒にできるんだよね!

與那國

(照れ笑)。

富田めぐみ×與那國太介 a la carteスペシャル対談
自らも琉球芸能の大ファンだと公言する富田氏からは
舞台に対する真っ直ぐな思いが言葉となってあふれてくる

 

“普通”では見えない、面白さと奥深さ

 

富田

これまで海外公演を含めて、沖縄県内外・世界各国の色々なお客様の前で一緒にやってきた中で『どうやったら沖縄の芸能を、今日の、目の前のお客様に伝えられるだろう』という部分を、太介はすごく真摯に向き合ってくれる。音楽だけじゃなくて、作品全体のことを考えてくれる。だからそこは、全幅の信頼を置いています『まかせた太介!』って。

與那國

僕も(富田氏の舞台に)出るたびに、日々成長してますよ。本当に。なんだろう……ちょっとした要望とか、ほかの演出家より言われるし。

富田

私はうるさいからね(爆笑)。

與那國

つねに出囃子(でばやし|楽師が舞台に並んで演奏すること)ですしね。(笑)

富田

そうだね。出ずっぱりで、おまけに色んな事をさせられるもんね。『座って歌うだけじゃなくて、立ってお客様と一緒に歌ってね』とかさ。(笑)

與那國

普通は暗くする調弦(ちょうげん|弦の音律を整えること)の時間も、あえて照明あてたりね。

富田

だって調弦って凄いんだもん。“テーン”って鳴らして、一発でピタッと合わせる曲とか『えっ何その技!』って驚きと感動で、『それは照明消したらもったいないでしょ、見てもらおうよ!』ってなる。

與那國

要するに普通の舞台じゃないんですよね。というか、僕も(富田氏の舞台に)出るからには普通の舞台はやりたくない。(笑) だから「a la carte」の地謡キャスティングも、それに応えられるような人たちで固めました。

富田めぐみ×與那國太介 a la carteスペシャル対談

 

根っこの気持ちが同じであること

 

富田

今年は組踊上演300周年にあわせた公演やイベントが、ものすっっっごいたくさんあって、みんな超忙しいでしょ。そんな中で、太介は音楽監督を引き受けてくれて、しかもすごく豪華な地謡メンバーを決めてくれた。舞台「五月九月」(富田めぐみ氏・演出)で音楽監督をしてもらってる花城英樹さんとか、太鼓の嘉数さやかちゃんとか……色々な才能と情熱を持ったアーティストが集まってくれて、私もすごく楽しみ!

與那國

うん。とにかく“間違いない人たち”ばっかり。だって(富田氏は)注文が多いから。(笑)

富田

(笑)。しかも私の注文が『この曲は四角じゃなくて丸のイメージで。あとよろしく』みたいに抽象的だしね。リハーサルを本息(舞台用語。本番と同じように演じること)でやらないと怒るしね。……だから皆さん大変だと思う。

與那國

だから出来る人じゃないと、出来ない舞台なのかなぁって。あとは、僕のことを信頼してもらっているから応えたい、そこが一番大きいかもしれない。

富田

『この人が出てくれるんだったら大丈夫だ』っていう信頼関係だよね。一緒に舞台をやってくれる人たちには、伝統的な琉球芸能をしっかりと受け継ぎたいっていう、一番大切な共通の気持ちがある。「a la carte」には、その芯がしっかりある人たちが揃ってくれたから本当に嬉しいの。特に今回みたいに色々な演目がある舞台だと『古典も、民謡も、創作も、全部得意じゃないと……』っていうハードルがあるでしょう。(笑)

與那國

色々なジャンルが混ざってるからね。地謡である僕らは、調味料の入れ具合を考えながら、曲を表現していかなければいけない。だから、言葉にしなくても意思疎通できる、お互いの気持ちが通じ合っているというのは大事だと思う。

富田めぐみ×與那國太介 a la carteスペシャル対談
舞台「五月九月」で音楽監督を務める花城英樹氏(写真左)
地謡でありながらセリフ付きの演技を披露し話題となった

 

ひとりの人間の中にある豊かな可能性

 

富田

そういう意味では、私も座組み(出演者とスタッフの人選)は、かなり力を入れてます。

與那國

(笑)

富田

立方・地謡・スタッフも含めて、キャスティングの段階から方向性やコンセプトを共有する。『この人と、この作品をやりたい!』っていう作品のベースとなる信念を確認してからオファーを受けていただくの。だから、キャスティングが終わった時点で、私の仕事は半分終わったと思ってる。(笑)

與那國

うんうん。

富田

お稽古やリハーサルが始まっても、演出を“足し算”することより“引き算”することの方が多いかも。料理は完璧だから、お皿にどうやって盛り付けるかを考えるようなイメージかな。

與那國

あぁ、なるほど!

富田

それは信頼しているキャストやスタッフが揃っていて、自分の中にあるものを表現する力を持った人達ばかりだから出来る。たとえば踊り手にしても、古典・空手・獅子舞……たくさんのジャンルを踊れる人がいる。それは単に“型”としてだけじゃなくて、それを踊れる“心”を持っているということで、こんなに豊かな心を持った人たちがやっている芸能なんだって、毎回すごいなぁって感じてる。

 

琉球芸能は多くの人の心によって受け継がれているのだと感じる

 

琉球芸能の“今”を支える人たち

 

與那國

そうだ。a la carteのPR動画すごく面白かった!

富田

ふふふ。すごいでしょう?

與那國

うん、こんなに変身するのかって。 実際に職場で急に立ち上がって踊りだしたら『どうした!?』ってなるけど。(笑)

富田

(笑)。あの動画はね、出演している本人たちが普段働いている職場で撮影したの。ほんとによく職場がOK出してくれたなって思うし、こういう風に沖縄の芸能は支えられてるんだなぁって、改めて感謝の気持ちが溢れます。

與那國

あんな動画を作れるんだもんねぇ。

富田

普通の人たちが、普通の営みの中で、夜になったらお稽古場に集まって“夢みたいな舞台を作っているんだ!”って伝わるかなと。

富田めぐみ×與那國太介 a la carteスペシャル対談
「a la carte」の出演者たちも 仕事や家庭と琉球芸能の道を両立させている

 

富田

琉球芸能に携わる人たちが、たとえ二足のわらじを履くことになっても、頑張って受け継いできた歴史が確かにある。琉球時代から現代まで、時々に苦しい状況があったはずなのに、決して琉球芸能を手放さなかった。『やる価値』『残す価値』があって、自分たちがその『意義』を感じ『誇り』を持っているから、今日があるんだなって思う。

與那國

たしかに。

富田

壮大な時間の中で、想いが途切れずに積み重なっているって、なんてスゴイんだろうって。

與那國

うん。

富田

今ここにある“琉球芸能”を、私たちが享受できる幸せっていうのかな……『だから観ないと、もったいないよ!』って、みんなに言いたくなっちゃう。(笑)

與那國

今回の舞台「a la carte」には、本当に色々なジャンルの料理が登場するでしょう。僕はこの舞台を作る料理人のひとりとして、“まーす(=塩)の入れ具合”を大切にしたいなって。

富田

料理は塩加減が肝心だもんね。

與那國

素材そのものの良さを壊さないように、料理によって素材の出し方……想いの込め方を変えていければ良いなぁと。

富田

公演会場には、色々なお客様がいらっしゃる。初めて琉球芸能を見る人もいれば、何百回って舞台に足を運んでいる人もいる。それぞれに“お好み”があるからこそ、私たちはできるだけ素材の良さが分かるものを提示していきたい。太介が言うとおり、ここ沖縄には素晴らしい素材がいっぱいあるから“本物の満足感”っていうのかな……“芸能そのものの感動”を味わっていただけたら嬉しい。

富田めぐみ×與那國太介 a la carteスペシャル対談

 

対談した人

富田めぐみ|とみた めぐみ

演出家/司会者/コーディネーター/ラジオパーソナリティー など多彩な顔を持つ。

琉球芸能をベースとした舞台を通して『沖縄と世界を繋ぐ』という志のもと、世界各国での舞台公演おこなう一方で、沖縄の人・地域と琉球芸能を繋ぐ活動にも積極的に取り組む。実演家たちと共に作り上げる、年齢・言葉・国を超えた親しみやすい舞台は、受け継がれてきた伝統に忠実でありながらも琉球芸能に新たな魅力を吹き込む作品として注目されている。世界中を飛び回りマルチに活躍する“琉球を愛する人”。


與那國 太介|よなぐに たいすけ

琉球古典音楽安冨祖流絃声会 師範(三線・胡弓・笛)/沖縄伝統音楽安冨祖流保存会 伝承者/伝統組踊保存会 伝承者/沖縄県立芸術大学院 舞台芸術専攻修了。

人間国宝である照喜名朝一に師事し、沖縄県内のみならず日本各地・世界各国での舞台演奏の経験を持つ。沖縄の伝統芸能である組踊をはじめ、古典音楽・琉球舞踊・琉球民謡など、幅広いジャンルで活躍する実力派の演奏者。沖縄という場所が大好きで、沖縄の文化芸能が大好きな“琉球愛”あふれる人間。舞台「a la carte」では音楽監督を務める。

 


a la carte(アラカルト)|2019年度 沖縄県文化観光戦略推進事業

■公演スケジュール

2019年 10月 11日(金)19:00
12日(土)13:00/16:00
13日(日)13:00/16:00

※開場は全日とも開演時間の30分前となります。

■会場
テンブスホール
沖縄県那覇市牧志3-2-10 那覇市ぶんかテンブス館4F

■チケット料金(税込)
一般:2,500円
高校生以下:2,000円

※未就学児に限り膝上鑑賞無料

→チケット購入はコチラから

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