富田めぐみ×與那國太介 a la carteスペシャル対談「琉球より愛をこめて」
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“琉球芸能ソムリエ”がいる一風変わったビストロを舞台に、沖縄のバリエーション豊かな芸能を味わえる舞台「a la carte」。10月に迫った公演を前に、演出家・富田めぐみ氏と音楽監督・與那國太介氏が、本公演にかける想いや制作秘話を語るスペシャル対談です。2人の軽快なトークとともに、あふれ出る琉球芸能への愛をたっぷりとご賞味ください。
琉球芸能のメニュー表は、ずっしり分厚い
いま、大田礼子さん(ステージング)と演目を選んで舞台の構成を詰めているんだけど、実はすっごい大変で。雑踊・若衆踊・女踊……「a la carte」の名前どおり、琉球芸能の色々なジャンルから、あれもこれもって“お好みで”食べてもらえるように選ぶんだけど、メニューがありすぎて困ってる。(笑)
決めきれないよね。全部、食べて欲しいってことでしょう?(笑)
そうなの!本当は一口ずつ全部を食べて欲しい。それくらい琉球芸能は多彩なんだなぁって噛みしめているところです。
じゃあ、そうとう悩んでるわけですね?
うん。結局『本日のオススメ』みたいな感じで、日替わりの演目にすると決まりました。(笑)
たとえば、お客様がこの舞台を観て気に入った演目があったときに『あ、それがお好きですか?それは若衆踊で、ほかにもこんな踊りがありますよ!』みたいに、琉球芸能の“層の厚さ”を知ってもらうための入口になったら良いなと思って。 だから今回は、それぞれの素材の良さが分かりやすいシンプルな演目、いわば各カテゴリーの定番メニューを選んでお届けしようってことになったの。ほら、自分たちの視点だけで選ぶと、すごくマニアックな演目だけになっちゃうから。
確かに!見て欲しい演目はいっぱいあるけど、その全てが楽しみやすいか・分かりやすいかって言ったら、そうじゃないもんね。……僕らは演奏しすぎて感覚がマヒしているけど。(笑)
(見せたいものはいっぱいあるけれど)そのあたりはグッと堪えるというか、葛藤をしながら皆で選んでいます。(笑)
音楽だけじゃない、音楽監督の仕事
「a la carte」という名前では1公演だけど、公演期間3日間で日替わりだから実質3公演分。同じ日でも回によって違う演目もあるのでもっとかも(笑)。音楽監督 兼 地謡(じかた|演奏する楽師のこと。じうたい/じうてーともいう)の太介は大変!
(笑)。
(笑)。
音楽監督として舞台をやるときって、曲に対してどんな味付けをしようか、想いをどう込めようかを考えるんですよね。『どういう見せ方をしたら、お客さんが楽しんでくれるか』も客観的に考える。
一緒に舞台を作っている感じは、より強くなるよね。私も『こうしてほしい』というオーダーから『どうしようか?』という相談に替わるから、そこは本当に違うなって感じる。たとえば、曲と曲のつなげ方が違うだけで、同じ曲でも印象は全く違ってくるでしょう。だから音楽監督は、音楽だけじゃなくて作品全体の“見せ方”を工夫しなきゃいけない。
うんうん。曲と曲のつなげ方で言えば、僕は曲のジョイント部分である“間”をとても大切にしていて。間が長すぎると、お客様とのバランスが崩れてしまうから。でも、お客様との距離感みたいなものは、会場の空気感や拍手の長さで変わるから、当日になってみないと分からない。(笑)
そうだよね。
音楽と照明の呼吸
それに加えて、照明さんとの関りもすごく大事になってくる。
そうなの!音楽と照明って、どちらも“呼吸”が大切だよね。光をあてるだけじゃない、点ける・消すタイミングやスピードで全く違う見え方になるでしょう。
うん、照明と音楽の相性はすごく大事。舞台の照明を担当しているのは坂本義美さんで、本当に大先生なんだけど『こうして欲しい』っていうお願いごとはするようにしています。
太介と坂本さんは相性いいよね。
(照れ笑)。
坂本さんは、バレエや日本舞踊の照明に関わる第一人者でもあると同時に、琉球芸能のことをとても愛してくれている方で、いつも琉球芸能の素晴しさを再認識させてくれるんだよね。今のチームは、主張し合うんじゃなくて『どうやったら琉球芸能をお客様に楽しんでもらえるか』を皆で相談しながらできているのが良いなぁって感じてる。
うんうん。
これまで『太介はいつも、照明と呼吸しているなぁ、お客様と呼吸しているなぁ』て思っていたけど、(照明と音楽の関係性を)同じように考えてたことがわかって嬉しい!
だから僕はいつも、舞台があって、僕ら地謡がいて、立方(たちかた|演者のこと)がいて、お客様がいて。僕は会場全体を斜め上の方から見て『どうしたら一体感がでるかなぁ』ってイメージするようにしている。
指揮者でもあり、料理人でもあり。
こうやって考えると、音楽監督って舞台全体を指揮する指揮者っぽいところもあるよね。
そうそう!それに料理人っぽいところもあるなって思ってる。1曲やって次の曲に移るとき、拍手が終わるのを待つか、拍手の余韻を残したまま始めるか、それは次のメニューによるし、その場の雰囲気にもよるし。曲という素材をどう料理するかみたいな。ほら、次の料理がきてるのに、前の料理がお口の中に残ってたらイヤじゃない?(笑)
逆に余韻を残しつつ、料理を楽しんで欲しい場合もあるしね。(笑)
特にこの「a la carte」は、宮廷舞踊から空手舞踊まで色々なジャンルの演目があるから。料理で言えば、いなむどぅち(沖縄の家庭料理)も、タコライス(沖縄のご当地グルメ)もあるみたいな。
とぅんだーぶん(琉球王国の宮廷料理)も、ゴーヤバーガー(沖縄のファストフード)もあるしね。本当に、それくらい沖縄の芸能は幅が広いからね。
琉球芸能という素晴らしい素材が既にあるから、料理人としては『そこに味付けしすぎない』ことが大切かなと思ってる。素材の味が分からなくなったら、それは自己満足になっちゃうから。
うんうん!素材を壊しちゃいけない。素材が一番大切で、この島にある素材そのものがクヮッチー(ご馳走)だから。
変な味付けならしない方がいい。
その代わり私たちは、素材そのもの、つまり“芸”の精度を上げていかなければいけない。
うん。
それと食べる順番も大切。同じ素材でも食べる順番で味が変わってしまうから、お客様には最後のデザートまでお腹いっぱい食べてもらえるように、どうやってお届けするのが良いか考えなくちゃいけない。太介とは、この考えが共通しているから一緒にできるんだよね!
(照れ笑)。
“普通”では見えない、面白さと奥深さ
これまで海外公演を含めて、沖縄県内外・世界各国の色々なお客様の前で一緒にやってきた中で『どうやったら沖縄の芸能を、今日の、目の前のお客様に伝えられるだろう』という部分を、太介はすごく真摯に向き合ってくれる。音楽だけじゃなくて、作品全体のことを考えてくれる。だからそこは、全幅の信頼を置いています『まかせた太介!』って。
僕も(富田氏の舞台に)出るたびに、日々成長してますよ。本当に。なんだろう……ちょっとした要望とか、ほかの演出家より言われるし。
私はうるさいからね(爆笑)。
つねに出囃子(でばやし|楽師が舞台に並んで演奏すること)ですしね。(笑)
そうだね。出ずっぱりで、おまけに色んな事をさせられるもんね。『座って歌うだけじゃなくて、立ってお客様と一緒に歌ってね』とかさ。(笑)
普通は暗くする調弦(ちょうげん|弦の音律を整えること)の時間も、あえて照明あてたりね。
だって調弦って凄いんだもん。“テーン”って鳴らして、一発でピタッと合わせる曲とか『えっ何その技!』って驚きと感動で、『それは照明消したらもったいないでしょ、見てもらおうよ!』ってなる。
要するに普通の舞台じゃないんですよね。というか、僕も(富田氏の舞台に)出るからには普通の舞台はやりたくない。(笑) だから「a la carte」の地謡キャスティングも、それに応えられるような人たちで固めました。
根っこの気持ちが同じであること
今年は組踊上演300周年にあわせた公演やイベントが、ものすっっっごいたくさんあって、みんな超忙しいでしょ。そんな中で、太介は音楽監督を引き受けてくれて、しかもすごく豪華な地謡メンバーを決めてくれた。舞台「五月九月」(富田めぐみ氏・演出)で音楽監督をしてもらってる花城英樹さんとか、太鼓の嘉数さやかちゃんとか……色々な才能と情熱を持ったアーティストが集まってくれて、私もすごく楽しみ!
うん。とにかく“間違いない人たち”ばっかり。だって(富田氏は)注文が多いから。(笑)
(笑)。しかも私の注文が『この曲は四角じゃなくて丸のイメージで。あとよろしく』みたいに抽象的だしね。リハーサルを本息(舞台用語。本番と同じように演じること)でやらないと怒るしね。……だから皆さん大変だと思う。
だから出来る人じゃないと、出来ない舞台なのかなぁって。あとは、僕のことを信頼してもらっているから応えたい、そこが一番大きいかもしれない。
『この人が出てくれるんだったら大丈夫だ』っていう信頼関係だよね。一緒に舞台をやってくれる人たちには、伝統的な琉球芸能をしっかりと受け継ぎたいっていう、一番大切な共通の気持ちがある。「a la carte」には、その芯がしっかりある人たちが揃ってくれたから本当に嬉しいの。特に今回みたいに色々な演目がある舞台だと『古典も、民謡も、創作も、全部得意じゃないと……』っていうハードルがあるでしょう。(笑)
色々なジャンルが混ざってるからね。地謡である僕らは、調味料の入れ具合を考えながら、曲を表現していかなければいけない。だから、言葉にしなくても意思疎通できる、お互いの気持ちが通じ合っているというのは大事だと思う。
ひとりの人間の中にある豊かな可能性
そういう意味では、私も座組み(出演者とスタッフの人選)は、かなり力を入れてます。
(笑)
立方・地謡・スタッフも含めて、キャスティングの段階から方向性やコンセプトを共有する。『この人と、この作品をやりたい!』っていう作品のベースとなる信念を確認してからオファーを受けていただくの。だから、キャスティングが終わった時点で、私の仕事は半分終わったと思ってる。(笑)
うんうん。
お稽古やリハーサルが始まっても、演出を“足し算”することより“引き算”することの方が多いかも。料理は完璧だから、お皿にどうやって盛り付けるかを考えるようなイメージかな。
あぁ、なるほど!
それは信頼しているキャストやスタッフが揃っていて、自分の中にあるものを表現する力を持った人達ばかりだから出来る。たとえば踊り手にしても、古典・空手・獅子舞……たくさんのジャンルを踊れる人がいる。それは単に“型”としてだけじゃなくて、それを踊れる“心”を持っているということで、こんなに豊かな心を持った人たちがやっている芸能なんだって、毎回すごいなぁって感じてる。
琉球芸能の“今”を支える人たち
そうだ。a la carteのPR動画すごく面白かった!
ふふふ。すごいでしょう?
うん、こんなに変身するのかって。 実際に職場で急に立ち上がって踊りだしたら『どうした!?』ってなるけど。(笑)
(笑)。あの動画はね、出演している本人たちが普段働いている職場で撮影したの。ほんとによく職場がOK出してくれたなって思うし、こういう風に沖縄の芸能は支えられてるんだなぁって、改めて感謝の気持ちが溢れます。
あんな動画を作れるんだもんねぇ。
普通の人たちが、普通の営みの中で、夜になったらお稽古場に集まって“夢みたいな舞台を作っているんだ!”って伝わるかなと。
琉球芸能に携わる人たちが、たとえ二足のわらじを履くことになっても、頑張って受け継いできた歴史が確かにある。琉球時代から現代まで、時々に苦しい状況があったはずなのに、決して琉球芸能を手放さなかった。『やる価値』『残す価値』があって、自分たちがその『意義』を感じ『誇り』を持っているから、今日があるんだなって思う。
たしかに。
壮大な時間の中で、想いが途切れずに積み重なっているって、なんてスゴイんだろうって。
うん。
今ここにある“琉球芸能”を、私たちが享受できる幸せっていうのかな……『だから観ないと、もったいないよ!』って、みんなに言いたくなっちゃう。(笑)
今回の舞台「a la carte」には、本当に色々なジャンルの料理が登場するでしょう。僕はこの舞台を作る料理人のひとりとして、“まーす(=塩)の入れ具合”を大切にしたいなって。
料理は塩加減が肝心だもんね。
素材そのものの良さを壊さないように、料理によって素材の出し方……想いの込め方を変えていければ良いなぁと。
公演会場には、色々なお客様がいらっしゃる。初めて琉球芸能を見る人もいれば、何百回って舞台に足を運んでいる人もいる。それぞれに“お好み”があるからこそ、私たちはできるだけ素材の良さが分かるものを提示していきたい。太介が言うとおり、ここ沖縄には素晴らしい素材がいっぱいあるから“本物の満足感”っていうのかな……“芸能そのものの感動”を味わっていただけたら嬉しい。
対談した人
富田めぐみ|とみた めぐみ
演出家/司会者/コーディネーター/ラジオパーソナリティー など多彩な顔を持つ。
琉球芸能をベースとした舞台を通して『沖縄と世界を繋ぐ』という志のもと、世界各国での舞台公演おこなう一方で、沖縄の人・地域と琉球芸能を繋ぐ活動にも積極的に取り組む。実演家たちと共に作り上げる、年齢・言葉・国を超えた親しみやすい舞台は、受け継がれてきた伝統に忠実でありながらも琉球芸能に新たな魅力を吹き込む作品として注目されている。世界中を飛び回りマルチに活躍する“琉球を愛する人”。
與那國 太介|よなぐに たいすけ
琉球古典音楽安冨祖流絃声会 師範(三線・胡弓・笛)/沖縄伝統音楽安冨祖流保存会 伝承者/伝統組踊保存会 伝承者/沖縄県立芸術大学院 舞台芸術専攻修了。
人間国宝である照喜名朝一に師事し、沖縄県内のみならず日本各地・世界各国での舞台演奏の経験を持つ。沖縄の伝統芸能である組踊をはじめ、古典音楽・琉球舞踊・琉球民謡など、幅広いジャンルで活躍する実力派の演奏者。沖縄という場所が大好きで、沖縄の文化芸能が大好きな“琉球愛”あふれる人間。舞台「a la carte」では音楽監督を務める。
a la carte(アラカルト)|2019年度 沖縄県文化観光戦略推進事業
■公演スケジュール
2019年 10月 11日(金)19:00
12日(土)13:00/16:00
13日(日)13:00/16:00
※開場は全日とも開演時間の30分前となります。
■会場
テンブスホール
沖縄県那覇市牧志3-2-10 那覇市ぶんかテンブス館4F
■チケット料金(税込)
一般:2,500円
高校生以下:2,000円
※未就学児に限り膝上鑑賞無料
→チケット購入はコチラから
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